You are currently viewing 保険外治療の考え方 ~高質な治療であるがゆえに、歯が長持ちするという価値観

保険外治療の考え方 ~高質な治療であるがゆえに、歯が長持ちするという価値観

歯科の保険外治療というと、銀歯の代わりに高価なセラミック歯を入れるというイメージがある方も多いのではないでしょうか。詰め物や被せ物を選ぶ際に、これまで歯科医院で「保険治療と保険外治療と、どちらにしますか?」と聞かれたご経験がある方もおられるのではないかと思います。当院でも、患者さんから聞かれることが非常に多い質問です。白い美しい歯をいれることだけでも生活の質(Quality of Life)が上がりますので、十分価値があることだと思いますが、当院では審美面に加えて精度も重要だと考えています。精度が高いと歯が長持ちする可能性を高めることができるからです

 

一枚の写真があります。

右上(赤枠の中)の2本の歯の被せものを入れた患者さんです。手前の歯は保険治療で銀歯を入れて、奥の歯は保険外治療で白い歯(ジルコニア冠)を入れています。通常は、見えやすい手前を白くして、奥歯を銀歯にするという組み合わせを選ぶ方が多いと思います。

なぜ、この患者さんは見えやすい手前の歯を銀歯にして、人目に触れない奥の歯を白い歯にするという選択をしたのでしょうか???

 

〇保険治療と保険外治療について

歯科の治療には、保険治療と保険外治療(自費治療)という二つの種類があります。

保険治療とは、健康保険が適用される治療のことです。国が定めたルールに基づいて、治療方法や材料、費用などが決まっています。患者さんの負担は、原則として治療費の3割です。保険治療のメリットは、費用が安く、全国どこでも同じ金額で治療を受けられることです。一方で、保険治療のデメリットは、治療方法や材料に制限があること、予防的な治療には保険が適用されない可能性があることです 。

保険外治療とは、健康保険が適用されない治療のことです。歯科医院が自由に決められるため、最新や最善の治療方法や材料を選ぶことができます。患者さんの負担は、全額自己負担です。保険外治療のメリットは、高品質・高性能の材料や材質を使用できること、最新・最善の治療方法を選べること、選べる治療方法の自由度が高いことです。一方で、保険外治療のデメリットは、コストと時間がかかることです 。

簡単に言えば、保険治療を審美面、材料面、耐久性、精度、治療成績等の面で質を高めたものが保険外治療になります。

 

 

〇保険治療と保険外治療の精度の違い

歯科治療は、歯が欠損した部分を冠という人工物で補っていきます。冠の精度が良い(歯との適合が良好で段差や隙間がない)方が、菌がたまりにくく、それゆえ虫歯や歯周病になりにくいということは明らかだと思います。冠を作る際は、歯科医院での歯の型取りから始まり(ここに至るまでにも歯周病治療や歯の土台を作る治療などいろいろな前処置が必要です)、歯科技工士が製作を担当していきます。保険診療でも保険外診療でも、大まかな製作ステップはほぼ同じです。そのステップごとにいろいろな材料を使っていくのですが、保険診療の場合は、制作過程で使う材料が変形してしまうことにより若干のずれが生じます。お口の中に冠が入っている方は、装着前に歯科医師が冠を削って調整をする場面を経験されているのではないでしょうか。最終的には、補正されて(して)“臨床的に許容できるレベル”になります(最善のレベルではありません)

問題は、変形の揺らぎが予測できない(全く同じ材料・条件で製作しても変形することもあります)という点にあります。保険診療でも精度よく仕上がることもありますが、それは偶然、各材料の変形(膨張や収縮)がプラスマイナスゼロになったという結果論であり、歯科医師や歯科技工士には予測できません。それでは、変形がない材料を使えばいいじゃないかということになりますが、それはコストがかかるので保険診療では採算がとれません(高品質の材料は値段も高いです)。精密な冠を作るために全力で取り組む歯科技工士に対する製作料も必要です(熟練の歯科技工士に対するチャージは高いです)。当院では、患者さんは大事な人生の時間を使って治療に通っていただいていると考えていますので、専門医として1%でも治療成績を高めたいと本気で思っています。したがって、保険治療と保険外治療のどちらがよいかと問われれば、保険外治療と断言します。虫歯治療や歯周病治療など感染を治す治療は、病気を治すというゴールが明確なので余程特殊な状況でなければすべて保険治療で対応可能です。ただ詰め物や被せ物という再建治療は人によってゴールは異なります。例えば義足を作るにしても平地を歩くだけなのか、登山をするのかで目指すゴールが異なるイメージです。長くなりましたが、どこに価値観を見出すかは人によって異なると思います。

材料の点からも、金属やプラスチックより、セラミックやジルコニアの方が、天然の歯よりもすべすべですので、菌が付きにくいです(陶器製の食器やお手洗いの便器等と同じです)。

 

 

人工物が永久に長持ちすることはありません。保険治療でも保険外治療でも形あるものはいつか壊れてしまいます。ただし、(検証の仕様がないですが)仮に同じ患者さんの同じ部位に保険治療/保険外治療の冠を同時に入れて、どのくらい長持ちするかを診ていった場合に、優れた材料を使って技工士が手を込めて製作した保険外治療の冠の方が長持ちするのは間違いないでしょう。歯は治療の度に削られていき、薄く、小さくなっていきます。これは再治療の度に、治療の難易度があがるということを意味します。条件の悪くなってしまった歯を再治療するときは、前回よりも高質の治療をうける必要があるのです。理想的には、何度も治療を繰り返し弱ってしまった歯ほど、再治療の可能性が少ない(ゼロではありません)保険外治療の方が延命効果が期待できます。長持ちさせる可能性を高めるために保険外診療を選ぶか、あまり長持ちしないかもしれないと考え、保険治療を選ぶかは患者さんご自身の選択です。

(実際は、一人ひとり、歯の一本ごとの個別具体的な状況があります。診療時に、歯の状態や予後の見込み等をご説明しております。検討材料はできるだけご提供致しますのでご安心ください。)

 

そろそろ先の写真に戻りましょう。

この患者さんは、「見た目は気にしない、保険外治療1本分の治療費でとにかく理想的な治療をしてほしい」と望まれました。ご相談の結果、奥は保険外治療、手前を保険治療にしました。理論的には、歯ブラシが届きにくく磨きにくい奥歯ほど、段差のない高精度の冠が入っている方が良いのです。極端な例かもしれませんが、ご選択の際の判断基準のひとつにして頂ければと思います。

 

〇まとめ

保険診療は、その仕組み上、患者さん主体ではなく、患者・術者・保険者の相互利益によって定められているルールです。経済合理性の観点からは、素晴らしい仕組みではありますが、「コストをかければ達成できる、よりよい治療」というものも存在します。保険治療の水準以上の精度を望まれる場合は、保険外治療という選択肢があります。また、一般的に治療方針決定の際には、自費治療を含めた方が選択肢の選択肢が増えます。ただ、お金は有限ですので、どう振り分けるかは患者さんの価値観次第です。食べ物や服や旅行や車にお金を投資するか、はたまた身体の一部であるお口の中に投資をするか、ご自身で判断して頂きたいと思います。当院では、その決定を尊重致します

 

 

 

(補足)本記事はポジショントークととられる方もおられるかもしれません。しかし歯科界の方であれば納得して頂ける内容だと思います。また保険治療を否定する意図は全くありません。私(院長)の奥歯にも学生時代に入れた保険治療の銀歯がまだ入っていますし、日々の臨床時に患者さんのお口の中で数十年前の保険治療が問題なく機能していることも頻繁に拝見します。あくまで治療の選択肢を提示するという意図で本記事を掲載しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実家の床下のメンテナンス(シロアリと湿気の対策)をしました。家も歯も形あるものは、定期的なメンテナンスが必要ですね。