スウェーデン式
歯科治療

スウェーデン式の歯科治療とは

スウェーデン式の
歯科治療とは

皆さんは、スウェーデンと聞くと何を思い浮かべるでしょうか?
雄大な自然や、おしゃれな北欧家具や雑貨、IKEAやVOLVOなどの世界的メーカーでしょうか。実は、スウェーデンは歯科界ではかなり先進的な国家でもあります。
歯周病治療、歯周組織再生療法、インプラントなど、スウェーデンでの発明や研究なくしては、いまの歯科医療は成り立たないと言ってもいいくらいです。
私は、研修医時代からの恩師の先生が、スウェーデンに留学されており、スウェーデンの歯科治療を実践しておられたので、大きな影響を受けきました。
私なりの解釈も入ってしまいますが、私の考えるスウェーデン式歯科治療のポイントは以下の3点です。

1,「ありのまま」の価値観
2,保険治療
3、広範囲のブリッジを用いた歯周病治療
ひとつずつ詳しくご説明をしていきます。

1.ありのままの価値観

1.ありのままの
価値観

スウェーデンを含むヨーロッパではご本人が気になっていないなら(食べたいものがなんでも食べられて、見た目も気にならないのであれば)多少の不具合はありのまま受け入れようという価値観があるように思います。不具合を放置というと、悪く聞こえるかもしれませんが、不具合に困った段階で治療すればいいだけの話です。私は、初めてスウェーデン式の医療に接したときに、「ありのまま」という概念は、われわれ日本人の価値観ととても合うのではないかと感じました。
例えば、奥歯がなくなってもそのままにしている方や、歯並びの乱れがある方は意外に多いのではないでしょうか?もし、お食事がしっかりできていて、見た目も気になっていない場合、果たして治療は絶対に必要なのでしょうか?歯がなくなったままだと、周囲の歯が移動してくるとよく言われますが、統計学的に言えば、移動しない方も大勢いらっしゃいます。また歯並びの乱れがあると虫歯や歯周病になるとよく言われますが、これも菌がたまりやすい場所を重点的に磨くか、歯科医院でメインテナンスすればリスクは相当下げられるでしょう。実は、このような不具合はご本人が困っていないのなら、あえて歯科治療(体に不可逆的な侵襲を与える行為で元通りには戻せません)を行う根拠に乏しいので、スウェーデン式ではそのまま置いておくことも選択肢の一つになります。
一方で、スウェーデンにおいても「ありのまま」では絶対にいけない状態があります。虫歯や歯周病などの炎症です。これらをありのままにして放置しておくと進行して悪化してしまうからです。スウェーデンのとある教科書の序文に「絶対的に必要なこと以上は何もするな、しかし絶対的に必要なことは怠ってはいけない」という一文があります。この絶対的に必要なことが、病気を治療することなのです。この病気をとるという段階では、科学的根拠に基づくゴール(目標)へ向けて徹底的な感染除去を行っていきます。明確な科学的根拠がありますので、選択肢があまりありません。しかし次の段階では、できるだけ患者さんのQuality of life(クオリティ オブ ライフ・生活の質)が高くなるような再建治療をご相談していきます。この段階では、患者さんごとの「ありのまま」の状態から歯科医学的に「理想的」と言われる状態までのどの状態にしていくかという複数のゴールが生じてきます。当院では、絶対的に必要なこと(=虫歯や歯周病の予防・治療)を重点的に行い、歯の形やかみ合わせについては、患者さんの「ありのまま」に寄り添いながら、患者さんごとに歯科治療の方針をご提案して参ります。

2.保険治療

スウェーデンの歯科治療の2つ目の大きな特徴は、わが国と同じ保険診療制度があるということです。保険診療は公的なお金を使うという性質上、費用対効果(コストパフォーマンス、いわゆるコスパ)がいい治療が求められます。スウェーデンは人口約1000万人の国家で、高負担高福祉型の医療保障制度が実施されています。しかしながら、いくら高福祉といっても財源に限りがあるので、できるだけ効率がいい、同じ効果があるなら安価でシンプルな医療行為が優先されます。また国民も自分たちが支払った税金がどのように自分たちに還元されているかをしっかりと監視しているそうです。
ではどのように保険制度を整備していったのでしょうか。ビジネス用語に「PDCAサイクル」というものがあります。Plan(計画)→Do(実行)→Check(検証)→Action(改善)の手順を繰り返し、質をどんどん高めていくというものです。スウェーデンの医療も同じように、長期臨床研究に裏打ちされた臨床を実践し、結果を評価し、新たな疑問を研究によって探求していくというサイクルが延々と行われています。これにより科学的根拠が疑わしい治療はなくなっていき、コスパの悪い治療は、より効率のよい治療に置き換わっていくのです。こうした結果はガイドラインとして整備され、インターネットで国民にも公開されています。国民(患者さん)の側も、どの治療が標準的な治療なのかが分かりやすくなり、治療方針を決める際、どの治療を選択すべきかを考えやすくなるメリットがあります。
スウェーデンでは、インプラントもセラミックの歯も保険適用です。ただし、もちろん何も制限がないわけではありません。例えば、大臼歯部でのインプラント治療は、もちろん咬めるようにはなりますがコスパはよくない(インプラント治療をしなくても”理論的には”咬めるのであえて公的な財源を使わなくてもよい)と見做され、保険適応外になるようです。このように保険治療は、その性質上、効果的で、最大限の恩恵をほどほどのコストで受けられるという治療に落ち着くと言えます。また歯科治療のやり直しは、虫歯や歯周病が原因と分かっていますので、虫歯や歯周病を予防できれば、歯科治療のやり直しは減っていきます(専門的には2次予防と言います)。もっと言えば、そもそも病気にならないように予防することが一番大事でしょう(1次予防といって本当の意味での予防です)。 日本では、残念ながらインプラントやセラミックなどのリハビリテーション分野は保険適応外になります(眼科でもメガネは保険がききませんよね)が、虫歯や歯周病などの病気の治療はほぼ保険でカバーされています。日本も国民皆保険制度を持つことを考慮すると、費用対効果を追求し、必要以上の治療はしないという「スウェーデン型」の治療コンセプトはとても参考になると思います。

3.広範囲のブリッジを用いた歯周病治療

3.広範囲の
ブリッジを用いた
歯周病治療

スウェーデンにおける研究により、重度の歯周病になった歯でも、歯茎の手術を含む徹底的な感染除去治療と再発を防止するメインテナンスによって、歯は驚くほど保存できることが証明されてきました。アメリカでも、歯周病治療の理論的根拠はスウェーデンにおける研究によるものが多いので、スウェーデンの歯周病治療は世界基準といってもいいと思います。
ブリッジを用いた歯周病治療と書きましたが、正確にはブリッジによって歯周病が治るわけではありません。歯周病治療によって歯周病が治ったとしても、一旦溶けてしまった骨は基本的にもとには戻りません。ですので、重度歯周病の患者さんの場合、歯周病は治った(=炎症はなくなった)としてもグラグラが残る場合があります。歯を長く持たせるためには、歯をグラグラしない状態にしてあげないといけません。 根の先の固定できない場合(骨を増やすことができない場合)は、歯の頭の方で固定するしかありません。そこでブリッジが登場します。ブリッジには欠損部を埋めることに加え、歯と歯をつなげてお互いに固定することができます(歯と歯がお互いに肩を組むようなイメージです)。
これは、入れ歯やインプラントでは達成できないブリッジだけの利点です。グラグラした歯に入れ歯のバネをかけたら余計グラグラしてしまいますし、インプラント治療を行えば欠損部に歯はできますが、隣の歯のグラグラは当然そのままということです。ですので、重度の歯周病の方の治療後にはブリッジによってグラグラを止めて咬めるようにするという仕上げが必要なのです(専門的には永久固定と言います)。重度の歯周病の方は、残ったすべての歯を連結して固定しなければいけない場合が多いです。このような大きなブリッジに関する研究は、スウェーデンの独壇場です。ブリッジは実は誰が治療したかで成功率が大きく変わる治療です。当然、専門医が治療した方が成功率は高くなります。グラグラした歯に対する治療としては、そこでお役御免と考え抜歯をして、インプラントや総入れ歯にするというのももちろん間違いではありません。しかし抜歯は、歯にとっての死刑宣告です。歯も生きたいと思っていると思います。ご自分の歯を最後まで使い切ってブリッジにチャレンジをしてみて、それでもだめなら次の一手としてインプラントか総入れ歯にするという選択肢もあるということを知っていただきたいと思います。
治療の1例です。

写真では伝わりませんが、初診時は歯がぐらぐらの状態でした。徹底的な歯周病治療と、どうしても保存が難しい歯の抜歯を行いました。歯周病が治っても(真ん中の写真では歯茎の色がピンク色になり腫れがなくなっています)歯のグラグラが残ってしまったためブリッジを計画しました。仮歯で形やかみ合わせを整え、14本分もの大きなブリッジを装着しました。患者さんの咀嚼機能は回復され大変満足して頂きました。もちろんブリッジを入れて治療終了ではなく、メンテナンスのスタートになります。

幸せの基礎工事、 はじめましょう。

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