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歯がしみる方へ ~知覚過敏について~

当院にも歯がしみるという方が多く来院されます。
基本的に歯がしみるという方は、虫歯か知覚過敏かの2択です。
今回は、知覚過敏について書いていきます。

 

〇知覚過敏はなぜおこるか

 

知覚過敏を説明するために、まずは歯の神経の特殊性を書いていきます。歯の神経が感じる感覚は、痛覚しかありません。何か刺激が加わったら、生じる感覚はすべて痛みになるということです。(ちなみに噛みごたえ等の感覚は、歯の神経でなく、歯と骨をつなぐ歯根膜という部分にあります。歯がなくなってしまい義歯になると噛み応えがなくなってしまうのは歯根膜がなくなるためです。)例えば、歯茎なら、痛覚はもちろん、温冷の感覚、触覚、圧力の感覚、味の感覚などいろいろな感覚がありますよね。歯の場合は、熱いものを食べても、冷たいものを食べても、歯ブラシで触っても、咬んでも、甘いものを食べても、すべて痛みを感じてしまいます。もちろん虫歯の刺激も、痛みを感じます。

 

知覚過敏は、歯肉が下がった方に起きやすいです。歯は、頭の部分(白くてかたい部分)のエナメル質、と歯の本体である象牙質に分かれます。エナメル質は細胞がありませんので、麻酔なしで削ったとしても痛みはありません。一方で、象牙質は生きた細胞がいますので、感覚(=痛み)があります。正常な状態ですと、エナメル質のみが口腔内に露出しており象牙質は歯肉に覆われていますので、痛みを感じることはありません。なんらかの原因で歯肉が下がってしまうと、本来、歯肉に覆われているはずの、象牙質が口腔内に露出することになり、痛みを感じてしまうわけです。さらに言えば歯冠と歯根の境目の部分(=歯肉がある位置)で、最もくびれた形態をしていて、神経までの距離が近くなるのも知覚過敏が起きやすい理由になります。

 

大学院生時代に研究で使用していた牛の歯のエナメル質の電子顕微鏡写真です。エナメル質には穴がないので知覚が全くありません。
一方で象牙質の写真です。無数の穴が開いており、一つ一つが歯の神経(歯髄)とつながっています。穴を通じて刺激が神経まで伝わってしまうので痛みを感じます。
象牙質の穴をふさぐことができれば、知覚過敏は改善できます。時間はかかりますが、生体が自分でふさぐことも可能です。知覚過敏抑制用の歯磨剤や、歯科医院で塗布するしみ止め薬は、この穴をふさぐ効果を効果があります。

 

 

歯肉がさがってしまう原因は、歯周病か歯ブラシの頑張りすぎによるものが多いです。

歯周病は骨が溶けて下がってしまう病気であり、骨が下がるとその上の乗っているだけである歯肉も一緒に下がってしまいます。また、歯ブラシ圧の強い方や、横磨き(歯茎に直角にブラシが当てて数歯分まとめてゴシゴシ磨く方法)の方も歯肉が下がりやすいです。歯ブラシ圧がさらに強いと象牙質が削れてくるかたもいらっしゃいます。また、歯並びが外側(唇や頬側)に出ている方やワイヤー矯正治療中の方も、歯ブラシが局所的に強く当たってしまう場合があり歯肉は下がりやすい傾向があります。

 

〇知覚過敏の治療について

 

知覚過敏は「病気」ではなく、「知覚が過敏になった状態」ですので、治療しなければいけないわけではありません。個人差が大きいですが、知覚過敏は、いつかは自然に治ります。知覚過敏抑制の歯磨剤も使用も有効です。ただし、日常生活に支障をきたすくらいお辛いようであれば、何らかの処置を考えてもよいと思います。

具体的には、以下の3つの順序で検討することになります。

  • しみ止めの薬剤を塗る

安価(保険診療で100円程度)に簡便に行うことができます。ただし、効果は弱く、作用期間も短いという臨床実感があります。

  • 詰め物で露出した象牙質をカバーする

歯を表面だけ削り、白い詰め物をする方法です。こちらも比較的安価(保険診療で1歯あたり数百円程度)で行えます。欠点としては、詰め物が永久に持つわけではないため、境界部の色が変わったり、剥がれたりしてきますので、定期的に再治療が必要になることが挙げられます。また精密に詰められていないと、段差や隙間に細菌が住み着くことによって炎症が起き、さらに歯肉が下がって新たな知覚過敏が起きてしまいます。また、虫歯でないのに歯を削られたくないという方にも向きません。

  • 神経をとる

最終手段です。痛みが全くなくなりますが、自分の身体の一部である神経がなくなってしまうという気持ちと、将来的に歯の寿命が短くなってしまう可能性があるところが欠点です。ちなみに私は、これまで知覚過敏で神経をとった患者さんは4名しか経験していません。皆さん、ご高齢の方で、かつその歯が「key tooth」(かみ合わせ上の重要な歯やブリッジや義歯の土台である重要な歯)でないケースでした。

 

当院のおすすめとしては、日常生活に支障がなく、見た目も気にならないようであれば、特に治療せず、そのまま生活して頂くのが得策と考えておりますが、その方の症状に合わせて上記の3点から選んでいくようになります。

 

〇歯周病治療と知覚過敏の関連

 

歯周病治療をするときの避けられない副作用は歯肉が下がることと知覚過敏です。中程度以上に進行した歯周病治療も目標は、下がってしまった歯肉をもとの位置に持ち上げることではなく(それは医学的に非常に困難です)、さらなる進行を止めることです。治療前は、赤く腫れあがってぶよぶよした歯肉が、治療後はピンク色に引き締まってくるので、見た目だけでいえば、歯肉は下がります。特に重度歯周病の方へ手術的な歯周病治療をした際は、歯周ポケットが一気になくなりますので、歯肉は一気に下がります。(人目につく部分は歯肉が下がってかっこ悪く見えないように配慮しますのでご心配はいりません)。また歯石が大量についている方を治療する場合は、歯石を取るとこれまで歯石によってカバーされていた象牙質が露出してしまいます。どちらの場合も、冬にコートをいきなり脱いだような状態になりますので、知覚過敏はおきやすくなります。

歯周病治療後も、歯ブラシが大事になりますが、中には、歯周病の再発を過度に心配されて、歯ブラシを頑張りすぎで知覚過敏が起きてくるケースもあります。当院でも、「歯ブラシを頑張りすぎないでください」、「もっと楽にブラッシングしましょう」などとご相談する場合もあります。

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私も学生時代に歯を患ったことがあり、歯の痛みを経験したことがあります。冬のころで、口を開いただけで冷気が入ってきて歯がしみるという状態でした。実際の診断の流れとしては、視診やレントゲン診査などで虫歯の可能性を否定することで、知覚過敏と診断されることになります。自己判断での診断は難しいため、気になる方は一度ご来院ください。ちなみに私の場合は虫歯でした。

 

令和4年6月13日に開院し、もうすぐ1年が経とうとしています。
地域の皆様に支えて頂きましてこれまで診療することができました。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 

山田歯科 院長 山田康友